人間というのはよほど強く意識しないと、これまでの経験に基づく主観で物事を判断してしまうものです。
2003年のベストセラー、養老孟司氏の著作『バカの壁』でも、「バカの壁」とは「人間の持つ思考の限界」だと説いています。
思考の癖があると、見えていない問題点にも気づかず、答えもパターン化してしまいます。思考の偏りを越え、気づかないこと・違う考えを見るために大事なのがメタ思考と呼ばれる思考法です。
今回はメタ思考の概要やメリット、そのトレーニング方法を紹介していきます。
メタ思考とは
メタ思考とは、問題をひとつ上の視点から眺めたり、もう一人の自分が自分を観察するように、外から自分をみたりして、違う考え方や新たな「気づき」をみいだし、物事をより本質的に考える思考法です。
私たちには、無意識に蓄積してしまっている認知の偏り、思考の偏りが存在します。
バイアスにとらわれた認知から、一歩ひいて、より高い視点から物事を眺めてみるのがメタ思考の視点です。
人間は自分の考えている領域がすべてであると思いがちで、この狭い範囲でしか物事をとらえることができません。
何事にも思い込みの強い人は、自分の考えている領域の壁を容易に越えられないのです 。
「そもそも何を目的として、このようなことを考えることになったのか?」とか、「そもそも今これを考える必要があるのか?」など
メタ思考、もしくはメタ認知と呼ばれるも考え方を習慣づけることができるようになると、独創的なアプローチや思考に拡がりが出るようになるのです。
メタ思考ができないと?
たとえばソフトウェア開発などの案件で、クライアントから要求された機能を仕様とおりにプログラムしたものの、うまく動かないことがあったとしましょう。
ひととおりのプログラムチェックを終えたあと、やはり動かないということになったときメタ視点が欠けていると「クライアントの仕様、もしくは要求がおかしい」とあなたは考えるかもしれません。
自分の理解を超える事象は、理解できない、解決できないときに、理解しにくい事象が原因だと考えてしまいます。
つまり考えること、理解しようとする態度を投げ出してしまっているのです。
ここで少しだけ考えを変え、「自分のプログラムに干渉しているプログラムは何か?ほかのルーチンをみてみよう」「そもそもこの機能は必要なものなのか?代替機能はないか?」、「同じ機能をほかのアプローチで解決できないか?」などと考えられれば、よい解決法がみつかることになります。
「クライアントのリクエストがおかしい」と結論づけるよりも、メタ思考で話し合ったほうがよほど建設的な議論ができることでしょう。
メタ思考は、問題を俯瞰し、抽象化して「問題そのものについて」考える思考法なのです。
そしてこのようなアプローチは、あなたの評価を上げることにもつながるのです。
メタ思考のメリット
ではメタ思考をすることによるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。主なものを紹介していきましょう。
「気づき」を得られる
ビジネスの現場では、問題への視点や考え方を変えることによって「気づき」を得られることがよくあります。
「そもそもこの問題の原因は別にあるのではないか?」、「なぜこのような問題が起きたのか?」「この問題を解決するのはわれわれなのか?」など、その問題の解決策を考える前に、メタ思考でひとつ上の観点から問題を見直してみると、新たな「気づき」を得、今まで考えつかなかった解決法が浮かんだりするものです。
本当の問題がわかりやすくなる
今目の前にある問題は、別の問題が引き起こした「結果」であるかもしれません。であれば、今の問題を解決したとしても、また新たな問題が起こる可能性は十分に考えられるでしょう。
いくら問題を解決しても次々に同じような問題が出てくるなら、何が本当の問題か?を考えることは、今目の前にある問題を解決するよりもはるかに重要なことになります。メタ思考は、このような根幹となる問題の発見に役立つのです。
柔軟性が高まり、冷静な判断ができるようになる
自分を俯瞰して客観的にみられるようになるメタ思考を身につけることにより、ひとつの考えに固執しない、柔軟性のある考え方ができるようになります。
メタ思考によって、思考の癖にとらわれない、より適切で冷静な判断もできるようになるでしょう。
メタ思考のトレーニング方法
このようにメリットの多いメタ思考ですが、どのようなトレーニングをしたら身につくのでしょうか?普段から心がけておくとよい、トレーニング方法を紹介しておきましょう。
セルフモニタリングとコントロール
メタ思考の第一歩は、自分を俯瞰して見つめ直すことです。
「自分は何のためにこれを行うのか?」「方法はこれでよいのか?」「ほかによい方法はないか?」など、まずはもうひとりの自分が自分を観察するように、外から自分を見つめ直してみましょう。
次にコントロールですが、まず自分を見つめ直した結果を紙に書いてみましょう。
文章やマインドマップなどの図式に問題を書き記すことは、しっかりとした現状把握になります。そのうえで解決法を導き、文章や図式はいつでも見返せるように保管しておきましょう。
参考図解
「なぜ?」と考えるクセをつける
自分を見つめ直す思考を身につけたら、次は他人の行動やビジネスでの課題についても「なぜ?」と考えるクセをつけましょう。
ものを作る製造現場や工場などでは、製造上の問題解決などに「なぜなぜ分析」という手法が用いられます。
なぜなぜ分析とは発生した問題に対して「なぜ起きたのか?」、「なぜ防げなかったのか?」など、なぜ?という疑問を繰り返すことにより、直接原因だけでなく根本原因まで探ろうとする分析方法です。
メタ思考を身につけるためには、起きた事象を漫然とみているだけではなく、なぜ?と考える思考のクセが有効です。
まとめ
変化の激しいビジネスの現場では、問題解決能力だけではなく、そもそもの問題を理解し、設定する「課題設定力」が求められます。
新しい概念や価値観を理解し、これまでにない発想や解決策を生むには「メタ思考」が有効です。
成長とスキルアップのために、メタ思考を身につけることをおすすめします。