ラクスル株式会社 上級執行役員 CHRO/ SVP of HR
潮﨑 友紀子氏
印刷・広告・物流という昔ながらのレガシー産業にテクノロジーを持ち込むことで、産業構造をアップデートしてきたラクスル株式会社。海外へ開発拠点を拡張し、創業10年でプライム市場への上場を遂げました。現在は、創業15年を目前に第二創業期を迎え、さらなる成長と変革を推進しています。
今回は、General Electric(GE) をはじめマイクロソフト、IBMなど複数の大手米国企業でHRのフレームワークを実践され、2022年12月よりラクスルCHROに着任された潮﨑 友紀子氏に、ラクスルの魅力とこれまでの変容、そしてこれからの展望についてお話を伺いました。
組織づくりに興味を持った学生時代。HRに魅了され大手グローバル企業へ。
潮﨑様のこれまでのキャリアを教えてください。
私のキャリアのスタート地点は、津田塾大学在学中にインターカレッジのサークル活動の一環でアメリカ模擬国連大会に参加したことです。帰国後にアメリカ滞在をサポートして下さった組織への貢献をすることになり、その組織での私の担当が人事に近い業務内容で、そこで初めて組織づくりの楽しさに気づきました。
とはいえ、この頃はまだ組織における“人事の機能”の意味や戦略性については意識がありませんでした。強く意識するようになったのは、コーネル大学大学院で日本の経営・人事モデル研究をしていた当時のチェコスロヴァキア出身の教授にお会いし、人事・組織づくりに対して本格的に考察し始めたことがきっかけでした。もともと「何をもってこの人の行動が生まれるのだろうか」「どうしてこういう思考になるんだろう」といったことに興味があり、さらに人と人が出会い化学反応する過程に関心があったので、その後のキャリアで組織づくりに携わることに疑いの余地はありませんでした。
そして、大学院の教授がGEのコンサルタントをしていたご縁もあり、本社でのインターンシップを経てGEに入社。リーダーシッププログラムにおけるアサインメントやシックスシグマ (Blackbelt)など、さまざまな組織管理・開発や人財開発を担当させていただきました。そしてちょうど10年経った頃に、「GE以外でも自分の能力が通用し、活躍できるのか」という問いに向き合うため、マイクロソフトに転職。3年半ほどの間、主にコンシューマービジネスの立ち上げを含めてAPACのHRBPを経験しました。各国のビジネスや組織力学の多様性に触れたことも大きな学びになったと思います。
「こんなリーダーがいるんだ」と衝撃を受けたラクスルトップの姿勢。
そのようなキャリアを経て、ラクスル様に入社を決めた背景を教えてください。
マイクロソフトを退社後も、ウォルマートやIBMなどの大手企業でHRを学ばせていただきましたが、ふと「日本の次世代の人たちにとって、より良い組織構造・施策のあり方とはどのようなものだろう」と立ち止まったことがきっかけです。それまでは、外資企業のHRとして日本の労働市場に携わってきましたが、今後は日本の労働社会を、直接的に活性化させたいと思い始めた頃、思いがけずラクスルにご縁をいただき、入社の運びとなりました。
入社に至った理由の一つは、お会いした現会長の松本や現CEOの永見の「会社の成長に対する真摯な姿勢」に一目惚れしたからです。自分のタスクを自分だけのタスクで終わらせず、会社を育てていくためにみんなで共有する姿勢やそれを組織として実行していくための徹底した価値観と行動力は、今までに出会ったリーダーにはない気質で、良い意味で衝撃を受けました。
「ラクスルスタイル」と歩んだグローバル化。
グローバル化を推進しているラクスル様ですが、どのような背景で進めることになったのでしょうか。また、グローバル化あるいはローカライゼーションで重要なのは、どのような部分でしょうか。
2020年6月にベトナム、同年7月にインドへ開発拠点を拡張し事業拡大をしてきましたが、その背景は「もっと会社を育てていきたい」というCEOや経営陣、社員の切なる思いに尽きますね。
ラクスルがこのような変容を遂げる際は、行動指針である「ラクスルスタイル」を重要視しています。「ラクスルスタイル」とは、Reality(高解像度)、System(技術・仕組み化)、Transparency(情報共有)、Team first(チーム構築)の4項目を指します。私たちの原点であり、日々の仕事の中でもそうですが、大きな分岐点で必ず回帰する指針です。
人事は「アートとサイエンス」、経営陣の1人としてさらなる洗練を目指す。
ここ数年でのラクスル様の採用、人材開発、キャリア開発、組織開発、人事制度など人事でのグローバル化を含めた取り組みで変化されたこと、逆に一貫して変わらない哲学はありますか。
変わらないことは、行動指針である「ラクスルスタイル」と「事業価値に貢献できるのか」というリアルな視点です。一方で、人事のプロセスやメソッドは時代のニーズや流行に合わせて、柔軟に対応していくべきだと思っています。
また、人事における哲学を説明する際に、私はかねてより「人事はアートとサイエンス」だとお伝えしています。サイエンスとは、数値を通して決断していくもの、ノウハウやメソッドも含まれます。一方、アートとは、社員一人ひとりの個とリーダーの価値観やそれに基づく優先順位を加味すべき決断の部分です。
例えば、少し抽象的になってしまうかもしれませんが、採用においてノウハウやメソッドをインプットさせてすべてAIに任せればいいかというとそうではなく、最終的には人間のアートによる決断が必要だと考えています。とりわけ企業の活性化と発展を担う人事に関しては、人事に携わる私たち経営陣の目が洗練されたものでなければならないのは大前提ですが、サイエンスの強化とアートの洗練は適切に行わなければなりません。
トップのマインドと組織力が第二創業期の成長へのカギ。
人事だけの変化ではなく、ラクスル様は経営陣からメンバーまで全社的に組織づくりに力を入れていらっしゃる印象です。その背景や源泉はどこから来ていると思われますか。
CEOの永見が「会社はみんなのもの。みんなで育てていこう」というマインドなので、「個としても組織としても事業としても、成長していきたい」という共通認識が人事のみならず社員全体に行き渡っていることですね。ラクスルがここまで成長できたのは、トップのリーダーシップと約15年という長きに渡って培ってきた組織力に起因するのではないでしょうか。
2023年8月にCEOが代わった今、ラクスルは新たなラクスルを創り上げていくフェーズになりました。今後どう進化していくのかと、経営陣でありながらとても興味深い気持ちでいます。
会社としての基盤づくりのフェーズから、他企業と差別化を図るフェーズへ。
こういった組織づくりを経て今後、ラクスル様はどういったフェーズに入るのでしょうか。また1年後、3年後、5年後どうなっていくのでしょうか。
弊社はこれまで、印刷・広告・物流などの「昔ながらのレガシー産業」に着目し、産業構造をアップデートしてきました。ダーウィンの進化論じゃないのですが、組織にはそれぞれのフェーズで乗り越えるべき壁があると思っています。ですから、ラクスルはこの約15年でいわゆるスタートアップ時のリクルーティングやペイロールといった基盤をベースにした人事のフェーズからは脱却して、他企業と差別化を図る人事のフェーズに入ったといえるでしょう。
1年後、3年後、5年後のビジョンについては、「成長の基軸がまず内製での立ち上げに加え連続的M&A、そしてグローバルへの展開」を掲げており、今はいろいろなことを試作しつつ邁進していく所存です。
個人のインスピレーションを持ち、ラクスルという場で表現できる仲間と出会いたい。
そのフェーズに向かって、今後ラクスル様はどんな方を採用されたいと考えていますか。
他の企業との差別化を図るという次のフェーズを達成するには、「ラクスルで何を実現させたいか」という個人のインスピレーションを持ち、「それをラクスルという場で実現いただける」方を求めています。人との出会いはスキルや実績が豊富かだけの問題ではなくて、「ラクスルスタイル」をご自身の中に落とし込み、共にパーソナルグロース(自分の成長)と組織運営を考えながら一人ひとりがオーナーシップを持っていただくことが重要だと思っています。この個人の方向性と会社のニーズが合っている前提において、個人の成長に対する経営陣のコミットメントは非常にしっかりしています。
もちろん、弊社の願望を一方的に押し付けるつもりはなく、我々自身も共に成長しながら、お互いのインスピレーションやWILLがどう化学反応していくのかを楽しめるような方だとうれしいですね。
その人らしさを引き出し、気持ちよくご活躍できる環境づくりを。
エンワールドでは “入社後活躍(enabling success)” をコアバリューに置いています。ラクスル社員の皆様が持続的に活躍されるよう取り組まれていることがあればお聞かせください。
オンボーディングで、ある一定期間のスケジュールが決まっているのはもちろんのこと、定期的にマネージャーとのミーティングもしばらくの間は設定され、 積極的にタッチポイントを増やすようにしています。また、「ラクスルスタイル」のように行動指針を細かく決めることによって、会社全体が目指すものを明確化して風通しの良い環境づくりを心がけています。
ありがたいことに社員はしっかりとしたポイントオブビュー(見解・視点・考え方)を持っている方々ばかりです。私たちにできることは、「その人らしさ」をうまく引き出し、入社後は気持ちよくご活躍できるよう全力で努めることです。
答えは自分の中にしかない。自分をよく知り幸せの基準を知ろう。
最後にこのページをご覧になっている皆様に一言お願いします。
さまざまな年齢・バックグラウンドの方にご覧いただいていると思いますが、皆さんに考えていただきたいことは、「答えは自分の中にしかない。だから、まずは自分をよく知るところからはじまる」ということです。
自分が「何が好きで何が苦手なのか」を自己分析し、自分が幸せだと感じるポイントがなにかを知ってもらえたらと思います。どういう環境で、何が自分を幸せにするのかとか、幸せを最大化するにはどういった仕事をしたいのかとか。重要なのは皆さんそれぞれが幸せであることなので、皆さんの仕事やキャリアが幸せの柱であってほしいなと思います。その柱を自分自身で正しく知ってほしいし、その上でフェアに場所を選んでほしいと思います。
ラクスルのビジョンは「仕組みを変えれば世界はもっと良くなる」ですが、キャリア育成のビジョンは「自分を知れば人生はもっと豊かになる」です。皆さんのキャリアは、社会への貢献にとどまらず皆さんの人生をも充実させてくれると、ラクスルにいる今、心より思います。
【インタビュアー エンワールド HR Division Principal Consultant 飯草 一平 】
潮﨑 友紀子(しおざき・ゆきこ)
ラクスル株式会社 上級執行役員 CHRO/ SVP of HR
津田塾大学卒、コーネル大学大学院修士課程修了(MPS & MA)。
General Electric、日本マイクロソフト、ウォールマート・ジャパン・ホールディングス、IBMなど複数の米国拠点企業で人事の主要なリーダーシップを発揮した後、2022年12月にラクスルへ入社。2023年2月より現職。
人事組織の戦略立案や組織変革に豊富な知見を持ち、全社の人事領域を統括している。
※2023年12月現在の内容です
エンワールド・ジャパンについて
エンワールド・ジャパンはアジア諸国3カ国で20年以上の歴史があり、日本最大級のグローバル人材紹介会社です。